塗り絵の活動をおすすめする理由(支援の立場から)

今回は、塗り絵の活動を、とくに福祉分野における支援側の立場からおすすめしている理由についてお話してみようと思います。

私が絵画の活動を指導している施設のひとつは、知的障がい児・者、発達障害者の福利厚生の為の施設で、生活介護・自立訓練をおこなっている「障害福祉サービス事業所」と呼ばれる通所施設です。(通所とは朝にお迎えに行き夕方お送りする、通いの施設ということです)。

そこでは施設長が美術に造詣が深いこともあり、設立当初からアート活動を積極的に取り入れていて、週に3日ほど創作活動に取り組んでいます。

私は3人いる絵画講師のひとりとして、週に1日お仕事をさせていただいて、もう10年が過ぎました。

その活動のなかで得た経験や、活動のために作った塗り絵の画像データは、支援の仕事に携わる方々のお力になれる要素があるのではないか、という思いから〔ぬりえラボ〕の活動をはじめました。

今回は、塗り絵の活動が「なぜおすすめなのか」「どういうメリットや効果があるのか」について具体的に記してみようと思います。

新しい活動を始めるには起案書などを書く必要もあると思いますし、塗り絵のための道具を揃えるには物品購入書類の記入も業務になってきます。また上司や同僚の方に提案をする際にそのまま使えるような言葉で、理由や効果などを述べていきたいと思います。
(多少のジャンルの違いはありますが、高齢者支援や保育の分野でも取り入れていただける内容になっていると思います)。

塗り絵の活動は、今あるもので始められる(購入するのは色鉛筆だけ)

アート活動のための特別なスペースがなくても、道具がなくても、すぐに始められるのが塗り絵の最大の特徴です。

必要なのは色鉛筆だけ。あ、それと鉛筆削りもいりますね。最初は100円ショップのもので十分です。鉛筆削りや使いかけの色鉛筆は、「不要なものがあればお譲りください」と声をかければ集まるのではないでしょうか。

私の経験でいいますと、絵画や造形に興味が無い方は、ほんとに無いです。きっと「この世になくても一向にかまわん」とお思いなんだと思います。存在を憎んでいる、といっても良いほどの方も散見されます。そういう方にアートの重要性を説いても、たぶん逆効果だと思うのです。

「お金かかりませんよ」
「手間もかかりませんよ」
「場所もいりませんよ」

まずはそこから始めてみるのはいかがでしょう。

塗り絵をする場所は、食堂はどうですか?。音もしないし汚れません。

余暇活動のための特別なスペースがなくても、食事のためのテーブルと椅子は人数分ありますね。昼食後から夕食までの時間は塗り絵スペースとして使えないでしょうか。

色鉛筆だったら、絵の具が飛び散ることもありませんし、大声を出すわけでもなく、音をたてることもありません。

コピー機で無料ぬりえをダウンロード印刷してみましょう。

福祉サービスに携わる方は、日々大量の書類と格闘されていませんか?。

「記録されていない支援サービスは、やってないのと同じ」なんだそうです。

そのためにきっと事業所には、大型のコピー機が(けっこう最新のものがリースで)設置されていると思います。〔ぬりえラボ〕のぬりえの中から、まずはシンプルなものを印刷してみてください。(ぬりえラボのシンプルシリーズはこちら)。

そのほかにも「無料ぬりえ」で検索してみると、たくさんの画像がネット上にあります。(検索でこのページにお越しになった方は既にご存知ですね)。

福祉サービス施設で塗り絵をおすすめする一番の理由はこれです。コピー機とパソコンがあり、常時たちあがっている状態は、無料ぬりえのダウンロードに最適な環境なのです。

とはいえ芸術には力があります。(と、私は信じています)。

なんだかんだでささやかに「塗り絵クラブ」を小人数で始めてみたとします。ここから先は予言のようなものになりますが、すべて私が経験した事実ですので事例としてお読みいただければと思います。

まず、塗り絵にハマる人が出現します。それは周囲を驚かせるほど。びっくりするような集中力を発揮する方が現れます。

そのような「ハマる人」のご家族にも変化が起こります。楽しそうに充実している様子を喜ばしく思ってくださり、出来上がった塗り絵作品を大事に持ち帰ったりお部屋に飾ってくださったりします。

そのタイミングで提案すると、始めたときは100円ショップの色鉛筆だったのが、だんだんグレードが上がってくることもあります。私の塗り絵グループでは、現在の主流は32色セットの色鉛筆です。ご家族の方が購入してくださいます。

最初から「塗り絵を始めるので色鉛筆を買ってください」と言うよりは、塗り絵をして充実した姿を見ていただいて、完成作品の良さを味わっていただいてから、「色数が増えるともっと素敵なんですよ~」という流れがスムーズだし、喜びも多いと思います。

(でも、この流れになるのは100%ではありません。芸術には人を動かす力があると私は強く信じていますが、興味を示さない方も必ずいます。それはそういうものとして、まあ人はそれぞれ自由なのだからということで)。

塗り絵にハマる人は、周囲の雰囲気を牽引してくれます。塗り絵を「良きもの」として職員の方々がムードを作ってくだされば、2人3人と塗り絵を楽しむ方が増えていくことはお約束します。

「ムードを作る」というと漠然としていますが、要は「ほめて褒めてホメてください」ということですね。支援されている方、見守りをされている方の声かけが、利用者さんのやる気に直結します。

(具体的な褒め方については「塗り絵の活動のための褒め言葉集」の記事で、詳しく解説しています)。

完成した塗り絵を壁面に飾ったり、地域の文化祭などに出品するとますます盛り上がりますし、周囲の理解も格段に違ってきますよ。

手を動かすことの効用や、色の刺激が認知機能へもたらす作用などは、福祉の専門家の方々にはあらためて申し上げることはないと思います。アートと呼ばれるものが持つ「いつのまにか周囲の雰囲気を変えて生活を楽しくする」チカラを、ぜひ実践していただきたいと思います。

塗り絵は個性をつぶす論について(そんなことないという意見)

これは美術の専門分野での話なのかもしれませんが、いちおう触れておこうと思います。美術教育の分野では、けっこう昔から言われていることなので、私の見解と立場から見て、ということで少しだけ述べておきます。

白い紙を渡して、自由に自分の世界を表現できる人って、ほんとに少なくて限られた人なんです。もちろん子どもが成長段階で、塗り絵だけしていればいいなんて思ってはいません。白い紙に自由に、上手でなくてものびのびと、たくさん描いてほしいと思います。思いをぶつけて形にしてほしいと思います。

でも、大人になると難しいんです。なかなか「自由に」っていうのは。

「だまされたと思ってちょっとだけ」って感じで、始めてもらえたらと思います。

始めてさえみれば、そこには多彩な個性が繰り広げられていきます。色彩や塗りかたは千差万別。そして様々に変化していくのです。

塗り絵は、支援する方も楽しめる活動

塗り絵の活動の時間は、支援する側の職員の方も楽しめる時間になります。

「楽」と「楽しい」は、車の両輪のようにどちらも大事で、同時に成り立つものだと思います。

利用者のみなさんが塗り絵にハマると、その活動はとても静かなものです。職員の方が一緒に塗り絵をするのも、とても素敵なことですね。

支援側がリラックスして楽しい時間だからこそ、利用者の皆さんの様々な個性に気づき、声に耳を傾けられる豊かな時間になるのだと思います。

利用者の皆さんが織りなす色彩を見て味わうのは、私にとって大きな喜びです。役得だなあといつも思います。そして時間を経て作品や画風が少しずつ変化していく様子は、何年たっても新鮮な驚きを与えてくれます。

以上いろいろ言ってきましたが、塗り絵の活動をおすすめする理由は単純に

塗り絵は楽で楽しいから。塗る人も見守る人も。

ということでした。

読了ありがとうございました。